2009年8月23日日曜日

習作その5

そろそろ本当に本編どうにかしないとな。




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 あれから、その場にあった地図を片っ端から見てました。
 念のために、観光ガイドや都市情報雑誌もあらかた目を通しました。
 信用できないので、社会の教科書や地理の参考書も読みました。

 で、結論。
 最初の地図は間違っていなかった。



 いや、そうなっちゃうんだよ。
 何を見ても、ほかの本と矛盾点のかけらもない記事が並んでる。
 ドッキリだとしたら、相当金がかかってると言うしかない。映画のセットにでも迷いこんだ気分だ。

 たとえば、最後に開いた小学生用の社会教科書。
 見返しのところに、わかりやすい日本地図がある。
 で、白地図に都道府県の境が入ってるんだが。

 青森から鹿児島までしか描いてない。
 しかも表題がこんなの。

「おぼえよう! 三府四十五県」

 ちょっと待てと。

 あわててその地図で府県の数をカウントしてみる。
 俺が習った日本の地理だと、第一級行政区は「一都一道二府四十三県」だったはずだ。



 だが俺の願いもむなしく、確かにその地図には、三府四十五県が書かれていた。





 




 北海道は日本に入らないらしい。東京は都が府になっている。だから、都と道がないわけね。
 三府は東京・京都・大阪。
 そして、四十五県は変則的だった。
 
 基本的なところはほとんど同じだが、こまかいところで県境が変な方向へ分かれている。
 たとえば浜松県と海鳴県が、その代表だ。
 ほかにこうやって分割されている県がふたつあり、こっちも日本領じゃなくなってる沖縄県が抜けたので、つごう四十五県。小学生にしてみればキリのいい数で覚えやすいのかもしれないが、いったん覚えてしまった俺としては迷惑極まりない。

 そうそう、新幹線だけど。
 “ここ”では、中央新幹線が大動脈みたいです。

 中学生用の地理の参考書によれば、明治のえらい人が
「東海道に鉄道をつくったら船便と客のとりあいになって発展しないし、海ぞいだと外国の攻撃に弱いから、線路は山側に敷こう」
 と言ったらしく、それからずっと中央線がメインらしい。
 ここ海鳴や名古屋など、徳川系の町を路線からはずす腹もあったとか。
 山縣のクソジジイ、よけいなことを・・・。

 さて。
 ここまで来て、状況に人為的な理由はまずあるめえ。
 普通に「越境通学だからけっこうかかる」とかしゃべってた客もいたし。
 だいたいJR巻き込んでドッキリかまして誰得って話だよ。

 となると、現状を説明できる言い分はみっつ。



 ・俺は正気で、まわりの世界がデタラメ(異世界転移)
 ・まわりの世界は元々このままで、俺が狂っている(精神異常)
 ・夢
 



 というわけで、俺はこの問題について考えるのをやめました。





 突っ込みを入れる前に、話を聞いてくれ。
 いやだって、俺の頭ではこれぐらいの理屈しか浮かばんかったんよ。
 しかも現状、どれか確かめる方法なんてわからんし。

 たとえば仮に、俺が狂っていたとする。
 イコール自分が狂っているとは自覚できないわけだから、周りが狂ってると決めつけることになる。

 んで、実は本当に俺が正気だったとする。
 でもまわりはみんなデタラメ世界の人間なわけだから、俺の疑問に答えてくれるようなヤツはいないと見ていい。
 むしろ、ここ基準では狂ってるの俺だし。

 最後、実は夢だとする。
 ますますわからなくなるだけだろ。

 てなわけで、どうにしろ俺には確認できないと。

 確かに、俺みたいに正気を保ってる/狂ってる人間が、他にもいるかもしれないとは思ったさ。
 でも周りの人をとっつかまえて質問攻めにしてる人間とか、地図やらなにやらを必死こいて読みこんでるやつは、俺の視界にはいなかった。
 だから、少なくともいま俺の近くにはいない。

 というようなことを考えつつ自分を落ち着かせて、今後の方針を決める。



 原点に戻ろうじゃないか。
 俺が知りたかったのは「ここはどこ」だ。
 まあ満足のいく結果ってわけじゃないが、ともかく駿河湾岸の海鳴にいるのはわかった。大収穫だ。

 じゃ話を進めます。
 俺が次に知りたいことはなにか。

 ・どうやって帰る

 こうなる。
 一応、里帰り中の異常事態だ。家に帰れなきゃ意味がない。
 さっきの地図を見るかぎり、神奈川県は特に異常ないみたいだし。これで故郷が北海道とかだったらパスポートが必要になってるとこだが、まあたぶん実家近辺に変わったところはないはずだ。
 なんせ通信隊がいるだけの、陸の孤島だしね・・・。

 現実逃避なんて言わないでくれ。
 実際それしかやることが思いつかなかったんだから、しょうがないじゃないすか。
 おファンタジアや春秋戦国な世界ならともかく、地名以外はほとんど記憶のなかの世界と同じようなところを異世界とか夢世界と呼ぶのは、さすがに抵抗があるんだ。

 さて、帰省するわけだが。
 ここで問題になってくるのが、例の線路上の障害物。
 ホームがけっこうあわただしくなってるところを見ると、JRもあせっているらしい。
 まだまだ不通は解けない雰囲気だ。

 運転見合わせは結構痛い。
 さっきの路線図を信じれば興津まで五駅ぐらいだが、そんなに歩けばもう夜だ。それこそ実家に連絡レベルになる。
 唯一の鉄道が止まると、まさに立ち往生だ。

 観光ガイドによると、海鳴近辺はバス網が発達しているらしい。
 まあ、政令市なんてたいがい広いんだから、バスぐらいはあって当然だけどさ。
 金はかかるけど、そっちのお世話になろう。



 平日昼間に六分間隔という驚異的なスピードでバスを繰りだしてくる、海鳴交通の高クオリティに驚いていた俺は、あれよあれよという間にバスを乗りついで興津駅へたどりついてしまった。
 疎にして漏さぬバス網、多い便数、連絡対応。
 むかし家の近所を走っていた神奈中バスに見せてやりたい光景だ。一本しかない、しかも乗換駅直通の路線つぶしやがって・・・

 閑話休題。
 とにかく興津駅に、俺は無事到着できた。
 駅のJRロゴが、Jのヒゲを上に伸ばしすぎてURに見える域に達してたけど、もう気にしない。

 まあ、熱海行きの電車が行ったばかりで、二十分ほど待ったのはご愛嬌ということで。



 さて、そんなわけで逗留していた興津の駅中で、俺は本日三度目の衝撃をうけることになる。
 規模的には、これが一番大きかったかもしれない。
 なんせ親戚関係だしな。

 具体的に言えば、駅で携帯をいじっていたときでした。

 うん。携帯もってるんよ俺。
 あまりにパニクっててポケットの中身を忘れてたのと、思い出しても携帯の狭い画面で現在位置をつかむ気になれなかったのとで、下宿からここまで使ってなかったけど、もってるんよ俺。
 携帯は便利だから使うんです。携帯より見やすくてタダのもんが近くにあれば、そっちに流れるのが筋ってもんだ。

 ともかく、俺の娯楽(mp3再生)のためにやっと存在意義が出てきた携帯で、サリエル様のテーマ曲など聞いていたわけです。
 本来は聞く気なかったんだけどね。
 さいしょに携帯で実家にかけたら留守録メッセージが出やがったので、帰宅が一時間ほど遅れますと吹き込んで切ったのだ。そこで実家があることに安心しつつ、気が抜けたんでなんか曲でも聞くか、という方へ思考が動いたと。

 ところで、さすがに無料配信のニュースフラッシュぐらいは、ありがたく受け取っている。
 そこで甲子園平安敗退とか東京為替95円台とか、そんな記事といっしょに、なんでこんなとこにと思える字幕があった。


「『倍照らす』、“故郷”神戸で先行上映

 看護士・水野常子の激動の人生を映画化した『倍照らす』が、地元神戸で先行上映。劇場は大入満員(07月29日 14時00分 朝日新聞)」


 思わず、指が「もっと詳しく」へ動いていた。

 さっきと話が違う。いやまったくその通り。
 ただ、さすがにこういう意味のわからん状況におちいって、こういう意外すぎるところで親戚の名前が出てきたら、同姓同名の可能性さしひいても詳しく聞きたがると思うんだ。

 とくに、ばあちゃんの名前だったりすると。


 携帯代でふっとぶ口座を頭のかたすみで思い浮かべつつ、結局あまり情報がなかったその記事から公式ページへと飛ぶ。
 映画はばあちゃん(?)にスポットを当てているらしく、人物略歴にまる一ページを使っていた。
 つーか、なんでばあちゃん?


「水野常子(1926年4月29日~2006年1月7日)

 商店の娘として1926年に生まれた常子は、2006年に修道女として一生を終えるまで、生涯子をもうけることなく、また生涯故郷の神戸から出ることはなかった──」


 おいこら。
 一行目から聞き捨てならんことを書いてんな。

 ばあちゃんが一九二六年神戸生まれなのは知ってる。
 しかも四月二十九日。いわゆる昭和の日。
 昭和の年号と同い年で、誕生日ごとに近所の家に日の丸があがるので、女学生ごろまではみんなが自分を祝っているのだと勘違いしていたという、豪快な伝説がある人だ。

 しかし問題はそこじゃない。

 同姓同名で生年月日と出身が同じということで、別人の可能性がかぎりなく低くなったのがポイント。
 しかも、経歴が色々違う。俺のばあちゃんは元気いっぱいです。
 きわめつけに「生涯子をもうけることなく」ときたもんだ。





 これはアレか。
 この異世界だか夢世界だかの中じゃ、俺は存在しないってか。
 なんだこのありがち展開。



 そりゃないぜ旦那。
 



 


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続いてしまいましたごめんなさい。

また電波が降りてきたのでカッとなってやった。もう反省しない。

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